宅建業コラム

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民法(債権法)改正が不動産実務に与える影響2-賃借人の修繕権と賃料の減額、保証の極度額-

更新日:2019年09月18日

2020年4月から改正民法が施行されます。今回は賃借人の修繕権、賃借物の一部を使用・収益できなくなった場合の賃料の減額、個人が根保証契約を結ぶ場合の保証の極度額等について解説します。現状の契約書の見直しが必要となりますので、改正点をしっかり確認してください。

民法・法律のイメージ

1. 賃借人の修繕権について

①現行民法

現行民法では、賃借人の修繕権についての規定はなく、「賃貸人の修繕義務」が規定されています(民法606条)。建物の賃貸人は賃料をもらっているので、賃借人に対し建物を使用・収益させる義務を負っています。例えば、雨漏りがするとその建物を利用することができなくなるので、賃貸人は建物について修繕義務を負うものとされています。

他方、賃借人は他人の建物を借りているにすぎず自己の所有物ではありません。したがって、「雨漏りを直してください」と賃貸人に依頼しても賃貸人が任意に建物の修繕をしてくれない場合に、自分で建物の修繕を行ってしまうと、他人の建物を勝手に改造したということで賃貸借契約を解除されてしまうおそれが生じてしまいます。

特に、普通借家契約の場合には、賃貸人からの更新拒絶になかなか正当事由が認められないこともあり、賃貸人としては、修繕をすればするほど、建物の老朽化が防止され、結果的に正当事由が認められず、建替えをしたいと思っていても建物がなかなか返ってこないことになってしまうため、積極的に建物の修繕等をしないケースが多く見受けられました。しかし、それでは賃借人の保護に欠けることになってしまいます。

そこで今回、「賃借人の修繕権」を認める条文が新設されました。

②改正民法 607条の2(新設)

(1)賃借人が、賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、または、賃貸人が、修繕の必要を知ったにもかかわらず、相当の期間内に必要な修繕をしないとき、および、(2)急迫の事情があるときは、賃借人が建物を修繕できます。

③実務上の注意点

このような修繕権が賃借人に認められましたが、(1)果たして本当に修繕が必要であるのか否か、(2)必要があるとしても、どこまでの修繕が必要なのか(例えば、窓が壊れて修繕する場合に、窓枠を木枠からアルミサッシに変更するような場合)、後日、賃貸人と賃借人との間でトラブルが発生することが心配されます。

そこで、今後の不動産実務においては、賃貸人は、賃貸借契約の中でこのような賃借人の修繕権を制約するような特約を設けることが考えられます。

例えば、あらかじめ修繕の内容について賃借人は賃貸人に通知をすることとしたり、協議の上、あらかじめ賃貸人の書面等による承諾を得ることとしたり、あるいは、修繕をすることができる範囲を、破れた障子やふすまの修理や張り替えなどの小修繕に限るとするなどです。

なお、賃借人に修繕権が認められたからといって、賃貸人の修繕義務はなくなりません。したがって、賃借人が修繕した場合の費用は賃貸人が負担することになるのは従来と同様ですので、注意が必要です(だからこそ、修繕の必要性や範囲について争いが生じることになります)。

マンガで簡単にわかる!改正民法-1 賃借人による修繕権

マンガで簡単にわかる!改正民法-1賃借人による修繕権

2. 賃借物の一部滅失等による賃料の減額等について

①現行民法

現行民法では、賃貸物件が滅失その他の事由によりその一部を使用・収益することができなくなった場合には、賃借人が、賃貸人に対し、賃料減額を請求することができるとの定めがあります(民法611条)。

②改正民法 611条

(1)改正民法では、賃借物が滅失しなくとも、賃借物の一部を使用・収益することができなくなった場合には、賃料が減額され、さらに、(2)現行民法の「請求できる」という規定から、改正民法では、賃借人からの請求がなくとも「当然に」賃料は減額されることとされました。

③実務上の注意点

賃借物の一部を使用・収益することができなくなった場合に、賃料の減額がされるのですが、(1)その使用できなくなった範囲はどこからどこまでなのかについてトラブルが発生するおそれがあります。

特に、建物が滅失した場合に限らないため、故障したり安全性が欠如したりした場合にも使用できなくなりますが、例えば、エアコンや上下水道の故障などのケースで、実際にそのような故障が発生しているかどうかの判定が難しい場合が出てくると思われます。

また、(2)エアコンや上下水道の故障があった場合に、果たして賃料はいくら減額されることになるのか、その判定が難しいという問題も生ずると思われます。

(3)そこで、上記のような場合に、どのような状況のときに、どのように賃料を減額するのかを明確にする特約を契約書に付けることが考えられます。

3. 原状回復義務

①現行民法

現行民法においては、抽象的な原状回復についての規定だけが存在しました(民法616条、598条)。
また、現行民法では「借主は……附属させた物を収去することができる」と、借主の「権利」の形式で規定されているものを、借主の原状回復の「義務」と解釈していました。

②改正民法 621条

改正民法621条においては、原状回復の義務が賃借人にあることが明記されることになりました。ただし、(1)賃借人の責めに帰すべき事由がないときは、賃借人は原状回復義務を負わないものとされました。

また、(2)通常の使用・収益によって生じた賃借物の損耗ならびに賃借物の経年変化については、原状回復義務は負わないものとされました。すなわち、通常損耗や経年変化については賃貸人が負担します。

これらは、賃借人の原状回復義務に関する最高裁判例(最判平成17年12月16日、判例時報1921・61)を明文化したものです。

③実務に与える影響

従来の判例法理を明文化したにすぎないため、実務に与える影響はそれほど大きいものではありません。なお、通常損耗を賃借人に負担させるとする原状回復に関する特約も、賃貸人と賃借人との間で明確に合意されていれば有効となります。例えば、畳の張り替えの費用やハウスクリーニング費用を賃借人の負担とするなどの特約です。

また、特に企業間の借家契約においては、高層ビルに入居した賃借人と賃貸人の間で、建物の新築時の状態に回復して返還する等の特約も有効とされた判例もあるので、注意してください。

4. 敷金について

①現行民法

現行民法には、敷金について明確な規定はありませんでした。もっぱら、集積された判例により、敷金に対しての考え方が整理されていました。

②改正民法 622条の2(新設)

(1)まず、敷金についての定義がされ、敷金とは、いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいうものとされました。これは過去の判例の理論が明記されたものです。

(2)また、賃貸人は、賃貸借契約が終了し、賃借人から賃貸物の返還を受けたときに、未払い賃料などの賃借人の債務を控除してその残額を返還することが明記されました。かつての判例法理(明渡時説。最判昭和48年2月2日など)が明文化されたものです。

③実務に与える影響

過去の判例法理が明記されたものにすぎず、したがって、従来行われていた実務の取扱いが大きく変更されるものではありません。

5. 個人根保証契約における保証人の責任

①現行民法

現行民法では、特に規定はありません(ただし、保証契約は書面でしなければ効力を生じないものとされています。民法446条2項)。

②改正民法 465条の2(新設)

賃貸借契約で個人が根保証契約(一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約)を結ぶ場合には、保証の極度額を定め、明示しなければ効力を生じないこととされました。

③実務上の注意点

例えば、建物の賃貸借契約で、賃借人の父に連帯保証人として署名押印をしてもらう場合、連帯保証人は、賃貸人と賃借人との間で発生する一切の債務を保証するのですから、単に未払い賃料債務等にとどまらず、例えば、賃借人が寝タバコをして賃借建物を全焼させてしまったような場合にもその全額を負担することとなってしまいます。そこで、極度額として、父はいくらまで負担するのか(例:200万円など)を明記しなければならないこととされました。この結果、今後は、保証人のなり手が減ることとなり、保証会社を利用することがさらに多くなると予想されます。

マンガで簡単にわかる!改正民法-2 賃借物の一部滅失等による賃料の減額等

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吉田修平法律事務所 弁護士 吉田 修平

1977年早稲田大学法学部卒業。1982年弁護士登録、第一東京弁護士会入会。1986年吉田修平法律事務所開設。2007年政策研究大学院大学特別講師。近著に『2016年改正 新しいマンション標準管理規約』(2017年、共著、有斐閣)、『民法改正と不動産取引』(2017年、きんざい)など多数。

このコラムは、全日本不動産協会が発行する月刊不動産2019年7月号に掲載された特集記事を一部改定したものです。