LGBT向けの入居支援のあり方-偏見を持たずに基本的な審査条件で判断を- | 全日本不動産協会 不動産保証協会 埼玉県本部

宅建業コラム

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LGBT向けの入居支援のあり方-偏見を持たずに基本的な審査条件で判断を-


自治体が同性カップルなどをパートナーとして公的に認める「同性パートナーシップに関する制度」が2015年から導入されはじめ、LGBTという言葉を耳にする機会が増えています。企業などでもLGBT支援が進む一方、その属性を理由に家を借りることができずに苦労しているLGBT当事者も多く存在します。不動産業者としてどういった入居支援ができるのでしょうか?

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LGBT人口は推計1,000万人

L G B Tとは、「 L e s b i a n( 女 性の同性愛者)」「Gay(男性の同性愛者)」「Bisexual(両性愛者)」「Transgender(心と体の性別が一致していない人)」の頭文字で、性的マイノリティーの略称として使われています。日本のLGBT人口規模は8%程度と推計(日本労働組合総連合会・2016年6~7月調査)され、国内人口(1.3億人)で換算すると約1,000万人存在するといわれています。

LGBT当事者は、教育や就労、医療、公的サービス・社会保障など、さまざまな生活場面で困難を伴います。中でも家探しでは、営業担当者に内見を断られたり、ルームシェアを前提とされて選択肢が狭まったり、容姿と戸籍名のギャップにより契約段階で拒否されるなど、特に同性パートナー同士やトランスジェンダーにとってのハードルは高い状況となっています。

「応援したい」オーナーは4割弱

リクルート住まいカンパニーが昨年実施したLGBT実態調査によると、住まい探しでセクシャリティに起因する困難や居心地の悪さを経験したLGBT当事者は賃貸で28.7%、購入で31.1%でした。不動産オーナー への調査では、79.4%がLGBTという「言葉」を認知。「応援したい」という回答は37%、若手世代ほどその意向が強いことがわかりました(図表1)。

図表1 LGBTに対する印象・意識

図表1 LGBTに対する印象・意識

また同性パートナー同士の入居を「気にせず許可する」との回答は、男性同士は36.7%、女性同士が39.3%(図表2)で、ルームシェアの回答率とほぼ同じに。

図表2 今後の入居希望者への対応意向

図表2 今後の入居希望者への対応意向

SUUMO副編集長の田辺貴久氏は、「オーナー側にも一定の理解が進んできている一方、年代別のギャップはどうしてもある。ただ、仲介業者とオーナー間の密なコミュニケーションが進み、認識不足による誤解や不安を解消することで変わっていく」とし、LGBTとオーナーをつなぐ不動産会社が積極的に動くことが大切だと指摘します。

「安心できる住まい」探しを支援

では具体的にどう対応すればいいのでしょうか? LGBT向けの賃貸仲介を手がける株式会社IRIS(東京都世田谷区)の須藤啓光社長は、「性自認や性的指向といった属性はあくまでも個性。入居基準は支払能力といった従来の審査条件で判断すればいい」と話します。

同社は、金融・不動産業の経験を持つ須藤社長がLGBT向けのライフプラン支援を行うために2014年に立ち上げた任意団体をベースに2年後に法人化、2017年に宅建業免許を取得してLGBT向け賃貸仲介業務をスタートしました。

SUUMOで物件を検索するとき、「LGBTフレンドリー」(LGBTを理由に入居相談や入居を断ることがない)の条件を入れることができるようになったこともあり、この2年間で同社への問い合わせやWebサイトへのアクセス数は2倍に増加。またオーナーや管理会社に対しても、LGBTについての無知による誤解の解消と物件掲載への交渉を重ねた結果、「LGBT可」物件データの蓄積もかなり増えてきているといいます。

多様性を理解すれば「新たなビジネスチャンスにも」

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とはいえ、まだまだ社会的な配慮が必要で、同社でも事務所にはLGBTを連想させるような看板を出さず、プライバシーに配慮して個室を準備。来店も完全予約制にしています。また問い合わせがあっても不要な個人情報は聞かず、「契約まではお客様が自称する名前で呼ぶようにしています」(同社・石野大地取締役)。

入居後も相談窓口としてフォローしているため、入居者からは「安心して暮らせる」との声も多く、「継続利用客が増え、紹介も多いことからプラスに循環しています」(須藤社長)。また自社物件や運営委託しているシェアハウスについても、「LGBTフレンドリー」物件が他社との差別化となり、満室稼働が続いています。

須藤社長は「家探しに関していえば、LGBTだけでなく外国人や障がい者、高齢者、シングルマザーでも課題は一緒。どうしてもイメージによる漠然とした不安が先行しがちだが、そこの誤認が解消できれば、あとは今までどおりの流れで対応できる。もっとシンプルに考えてもいいのでは」と指摘します。そのためにも、同社は積極的に情報を発信し「気づき」のきっかけを増やしながら、不動産会社との協力の輪を広げたいとしています。

さらに同社では、各種保険や住宅ローンの相談にも乗っています。同性婚が増えれば、次の段階は子育てとなり、「家族で住むための家を買いたいというニーズも増えていく可能性が高い。同性パートナーシップに関する制度(2019年1月現在11自治体、3自治体検討中)で一定の社会的承認が得られていけば、住宅取得のハードルも下がってくると考えています」と話します。従来の家族観から多様な家族のあり方に発想を転換できれば、新たなビジネスチャンスが生まれる可能性がありそうです。

このコラムは、全日本不動産協会が発行する月刊不動産2019年5月号に掲載された特集記事を一部改定したものです。

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