2020年の不動産市況の見通し-消費税増税、オリンピック前後の不動産市場 | 全日本不動産協会 不動産保証協会 埼玉県本部

宅建業コラム

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2020年の不動産市況の見通し-消費税増税、オリンピック前後の不動産市場


これまで大都市圏・地方圏ともに不動産市場は着実な回復を遂げてきました。来るオリンピック・パラリンピックの開催を契機として、2020年に不動産市況が潮目の変化を迎える可能性はあるのでしょうか?さまざまなデータを点検しながら、今後の不動産市場の動向を展望します。

2020年の不動産業界概況

1. いよいよ東京五輪!

昨年のラグビーワールドカップの興奮が記憶に新しい中、今夏にはいよいよオリンピック・パラリンピックが開催されます。選手たちの活躍や国内外の人々との交流を通じて、日本に明るい話題がもたらされることは間違いありません。その一方で、五輪を契機として不動産価格が暴落するのではないかと心配する声も聞かれます。

しかしそれは杞憂にすぎません。「五輪を目がけて外国人投資家が日本の不動産を爆買いしている」「彼らが売り浴びせに転じることから五輪前後に不動産市場が崩壊する」といった説は単なる誇張ですから、そのような心配をするのは無益です。

まずは図表1を見てください。

図表1 シドニー、ロンドン、東京における五輪招致決定後の住宅価格の推移出典:日本不動産研究所「不動研住宅価格指数」、Australian Bureau of Statistics、HM Land Registry

ここには、シドニー(2000年)、ロンドン(2012年)、そして東京(2020年)における五輪開催決定以降の住宅価格の推移を示しました。五輪の招致をきっかけとして住宅価格が急上昇するとか、五輪開催前後に住宅価格が暴落するとか、そのような現象は“定説”ではないことがおわかりいただけます。

これまでの東京の住宅価格の動きをみても、シドニーやロンドンと比較して特異な状況にはありません。2020年、五輪をきっかけに不動産価格が急落するとの見立てには何ら根拠がないのです。

2. 首都圏のマンション価格は高止まりへ

とはいえ、特に首都圏の新築分譲マンション市場においては、そろそろ価格の上限余地が限られつつあるかもしれません。

株式会社不動産経済研究所の調査によると、2019年のマンション単価は過去最高水準で推移しました。しかしながら、販売戸数が減少していることに加え、販売の好不調を示すとされる契約率が低迷し、心理的な節目とされる70%を割り込んでいます(図表2)。

図表2 首都圏新築分譲マンションの販売戸数、契約率、1㎡当たり分譲価格出典:不動産経済研究所

その背景には、マンション分譲事業者が単価を維持しながら慎重に売却を進めるという販売戦略を採っていることが挙げられます。一方、需要サイドにおいては、人々の雇用・所得環境が良好であるとはいえ、更なる改善の余地には自ずと限界があり、実需層の住宅購入予算が力強く伸びていくことを期待しづらい情勢です。マンション分譲事業者が売り急ぎに転じる必要性には乏しいことから、マンション価格が下落する可能性が差し迫っているとはいえないものの、価格上昇ペースが一定程度鈍化することは避けられないと考えられます。

3. 中古市場、戸建市場と地方マンション市場の拡大

首都圏においては、販売戸数が減少している新築分譲マンションに代わって、中古マンションや戸建住宅が住宅需要の受け皿として存在感を増しています。

中古マンションについては従来よりも立地条件などの面で優れた物件が供給されるようになったことから、居住の利便性を追求する人たちから人気があります。また戸建住宅(特に建売住宅)はリーズナブルな商品が普及しており、こちらも初めて住宅を購入する人たちのニーズに応えています。

首都圏の住宅市場において、高額で希少な「新築分譲マンション」と、利便性や経済性に魅力のある「中古マンション・戸建住宅」が住宅需要を支えるという構造は、2020年も継続することでしょう。

他方、地方都市における分譲マンション市場は依然として成長余地があります。とりわけ各地域における拠点性の高い都市においては、中心市街地に居住するというライフスタイルの魅力に気付き始めた人たちが増えています。このことは、地価の動向からも観察されます(図表3)。

図表3 圏域別の対前年住宅地地価変動率出典:国土交通省「都道府県地価調査」

「都道府県地価調査」から地域別の住宅地地価変動率の推移をたどると、四大都市(札幌、仙台、広島、福岡)に代表される地方都市において、三大都市圏よりもむしろ高い地価上昇率が観察されています。こうした地価の分布は、前回の地価上昇局面(2006~2007年頃)とは異なっており、昨今の特徴的な動きであるといえます。

かつてのように大都市での地価上昇が地方にも波及するといった従属的な波及経路ではなく、昨今は地方都市ならではの不動産需要の創出が地価に反映される時代となってきました。地方都市における都心居住志向の高まりはそうした需要の変化の一要因であると指摘することができ、新築分譲マンション市場の拡大がそれに伴った現象であるといえます。こうしたトレンドは2020年以降もしばらく継続するものと見込まれます。

4. プロ投資家の投資意欲と賃貸住宅市場

日本不動産研究所は半年に一度「不動産投資家調査®」を実施し、その結果を公表しています。最新(2019年10月実施)の調査結果によると、今後1年間に「新規投資を積極的に行う」とした回答が95%に上り、過去最高水準となりました。不動産投資家の間で積極的な投資姿勢が維持されていることがわかります。

さらに「新規投資を積極的に行う」と回答した投資家に対して、どのような投資対象に関心があるのかを挙げてもらったところ、「単身者向け賃貸住宅(ワンルームマンション)」が「オフィスビル(Aクラス以外)」に次ぐ2位となりました。

一般に賃貸住宅はオフィスや商業施設などと比べて賃料が下がりにくいことから、どちらかというと、不動産市況が悪いときに投資家から好まれがちなタイプの不動産であると理解されています。現在のように不動産市況が活況にもかかわらず賃貸住宅が好まれるのは、非常に珍しい結果であるといえます。

その背景には、投資家の方々の堅実な投資姿勢があるものとみられます。すなわち、今後たとえ不動産市場に調整局面が訪れるとしても、賃貸住宅からは安定的・長期的に賃料収入を獲得することができるといった投資家の意識が強まっていると推察することができます。

実際、わが国においては住宅の賃料は上がりづらいと信じられていたところ、昨今はごく緩やかながら賃料の上昇を観察することができます。図表4には、東京都心5区と東京23区における新築マンション賃料の推移を示しました。

図表4 都心5区および東京23区における新築マンション賃料出典:日本不動産研究所、アットホーム、ケン・コーポレーション「住宅マーケットインデックス」

ただし、住宅賃料の上昇が全国的に広がっていくと期待することは不適切です。これまでの景気回復を追い風として、立地や設備などの面で優れた物件は賃料を増額することができている一方、日本が人口減少社会に突入していることもまた事実です。すべての賃貸住宅が賃料上昇の恩恵を受けられるということは決して起こりえず、まさに優勝劣敗の原理が働いていると考えるべきです。

ひところの、節税を目的としたアパート投資やサラリーマン投資家によるワンルームマンション投資の盛り上がりを記憶している方もいらっしゃることでしょう。最近になって一部の事業者や金融機関によるスキャンダルが話題となりましたが、それ以前からいわゆるアパートローンの市場は下火となっています。2020年以降も、経営的な視点をおざなりにした賃貸住宅投資が再び脚光を浴びるとは考えられません。

5. 日本の景気の見通しと不動産市場

先ほど4.で「これまでの景気回復を追い風として… 」と記載しましたが、2019年は景気の足踏み感が強かったという指摘も聞かれます。実際、その指摘は決して的外れではありません。米中貿易戦争に端を発する世界経済の不透明感を受け、日本の輸出産業は少なからず打撃を受けました。その結果、わが国の製造業は不振に陥り、景気の足を引っ張っています。

それでも現在のところ、日本の景気後退が深刻化しそうだとか、これから訪れる景気の谷が深そうだといった警戒感を抱くべき状況には至っていません。その最大の理由は、日本企業が前向きなマインドを失っていないことにあります。

企業の設備投資計画や新卒採用計画をみると、依然として過去数カ年度と比べて高い水準を維持しています。景気の足踏み感が広がっている割には企業の業容拡大意欲は底堅い状況にあると総括できます。そして企業の業容拡大意欲は、オフィス、商業店舗、物流施設等の床需要の拡大につながります。

たとえば、オフィス賃貸市場についてみると、賃貸需給は着実に引き締まっています。オフィス仲介会社等のデータによると、主要都市におけるオフィス空室率は軒並み低下し、過去最低水準に至っています。2020年は東京や横浜などでまとまったオフィス供給が予定されていますが、順調に貸床が消化されそうな情勢です。今年も賃貸需給が引き締まった状況が継続するものとみられます。

昨今の景気動向を捉える上では、2019年10月の消費税率引き上げの影響も無視することができません。たとえば、百貨店売上高や自動車販売台数などをみると、9月に一定程度の駆け込み需要がみられましたし、10月はその反動と台風の影響が相まって大きな落ち込みを記録しています。もっとも、前回(2014年4月)と比べると、概して消費税率引き上げ前後の変動は小さかったようです。

不動産市場においても、住宅着工のデータにそれが典型的に表れています(図表5)。

図表5 消費税率引き上げ前後の住宅着工戸数の前年同月比出典:国土交通省「住宅着工統計」

前回は消費税率の引き上げ前の2年間程度にわたって住宅着工が大きくプラスとなり、引き上げ直後にマイナスに陥るといった明確な駆け込みと反動がみられました。しかし今回は駆け込み的な着工はほとんどみられませんでした。いきおい、その反動減に身構える必要はなさそうです。

6. 不動産市場成熟の時代における事業機会とは

改めて2020年の不動産市場を展望すると、良好な雇用・所得環境や企業の業容拡大意欲の底堅さを背景に、不動産の実需に特段の変調なく1年を乗り切ることができるでしょう。緩和的な金融環境が継続する可能性が極めて高いことも相まって、賃貸市場、売買市場とも、これまで同様の緩やかな回復基調をたどるものと期待することができます。

一方、リスク要因として、不動産市場が過熱化する可能性に目配せしたいと思います。オフィスの空室が逼迫していること、あるいはJ-REITの市場が好調であること等は、朗報である反面、過度な強気が不動産市場に蔓延するきっかけともなりかねません。そして過度な強気を前提とした事業計画や投資計画は、いつか必ず破綻することでしょう。

もっとも、これまで不動産の価格や賃料の回復が穏当なペースにとどまっていたことは、昨今の不動産市場における価格や賃料の形成が、過度な強気によって支配されていない、いわば不動産市場が成熟した証であるともいえそうです。ひるがえって考えると、こうした時代においては、単に市況の変動を当て込んだような事業機会や投資機会はもはや存在しないと考えるべきです。

個別の物件の真の実力―すなわちその物件が将来にわたって需要を獲得することができるのか―がこれまで以上に問われるようになっているのです。人口減少社会だから不動産業は斜陽産業であると短絡的に考える必要はありません。むしろどのような物件が長期的に収益を生み出すのかを経営的な視点から検討し、それを実現することにこそ、不動産業における事業機会や投資機会が存在し、さらにそこには社会的な意義も存在するのです。

一般財団法人日本不動産研究所 不動産エコノミスト 吉野 薫(よしの かおる)

東京大学大学院経済学研究科を修了後、日系大手シンクタンクのリサーチ・コンサルティング部門を経て、一般財団法人日本不動産研究所にて現職。現在、国内外のマクロ経済と不動産市場の動向に関する調査研究を担当している。大妻女子大学非常勤講師。

このコラムは、全日本不動産協会が発行する月刊不動産2020年3月号に掲載された特集記事を一部改定したものです。

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