相続法改正の解説-配偶者短期居住権と配偶者居住権 | 全日本不動産協会 不動産保証協会 埼玉県本部

宅建業コラム

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相続法改正の解説-配偶者短期居住権と配偶者居住権


2018(平成30)年7月、相続法が大きく改正されました。
残された配偶者が安心して安定した生活を過ごせるようにするための配偶者(短期)居住権の創設や、遺産分割、遺産制度等が見直されました。
改正点の主なポイントを解説します。

東京グリーン法律事務所弁護士 伊豆隆義

1988年弁護士登録(東京弁護士会所属)。不動産・建築に関連する案件を中心とした弁護士業務を実施している。著書に『借地借家契約 特約・禁止条項集』(2014年、共著・江口正夫編著、新日本法規)、『会社を経営するならこの一冊』(2010年、共著、自由国民社)など。

夫婦・配偶者

1.相続法改正の概要

2018(平成30)年7月6日に、民法のうちの相続法分野と家事事件手続法の改正がされ、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」も成立しました。
相続法とは、民法のうちの、人が死亡した場合に、その人(被相続人)の財産がどのように承継されるかなどに関する基本的なルールを定めた法をいいます。

相続法は、戦後1947(昭和22)年に家督相続制度の廃止などの大改正がなされ、その後、何度かの改正をしてきましたが、1980(昭和55)年に改正されて以来、大きな見直しがされず、今日に至っていました。
他方、この間、わが国は核家族化や高齢化社会の進展などの社会経済の変化が生じており、今回の改正では、このような変化に対応するために、相続法に関するルールを大きく見直しています。
具体的には、次のとおりです。

  1. 被相続人の死亡により残された配偶者の生活への配慮等の観点から、1.配偶者居住権・配偶者短期居住権の創設、2.婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置(持戻し免除の意思表示の推定)の創設をしました。
  2. 遺言の利用を促進し、相続をめぐる紛争を防止する観点から、1.自筆証書遺言の方式を緩和し、2.法務局における自筆証書遺言の保管制度の創設(遺言書保管法)をしました。
  3. 遺産分割制度の見直しにおいては、1.預貯金の払戻し制度の創設(遺産分割前の払戻し制度)、2.遺留分制度の見直し、3.特別の寄与の制度の創設(相続人以外の者の後見を考慮するための方策)などの改正を行いました。
  4. その他、1.遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲についての規律、2.遺言執行者の権限の明確化、3.相続の効力等に関する見直しなどの改正がなされました。

2.配偶者の居住権を保護するための方策について

配偶者の居住権保護のための方策として、遺産分割が終了するまで等の間の比較的短期間に限り、これを保護するための配偶者短期居住権と、配偶者がある程度長期間その居住建物を使用することができるようにするための配偶者居住権との2つの制度を設けました。

(1)配偶者短期居住権[改正民法1037条、2020(令和2)年4月1日施行]

ア.居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合の規律配偶者は、相続開始の時に被相続人所有の建物に無償で居住していた場合には、遺産分割によりその建物の帰属が確定するまでの間、または相続開始の時から6カ月を経過する日のいずれか遅い日までの間、引き続き無償でその建物を使用することができることとなりました。

イ.遺贈などにより配偶者以外の第三者が居住建物の所有権を取得した場合や、配偶者が相続放棄をした場合などア.以外の場合配偶者が、相続開始の時に被相続人所有の建物に無償で居住していた場合には、居住建物の所有権を取得した者は、いつでも配偶者に対し配偶者短期居住権の消滅の申入れをすることができるが、配偶者はその申入れを受けた日から6カ月を経過するまでの間、引き続き無償でその建物を使用することができることとしました(図表1)。

(2)配偶者居住権[改正民法1028条、2020(令和2)年4月1日施行]

配偶者が相続開始時に居住していた被相続人の所有建物を対象として、終身または一定期間、配偶者にその使用または収益を認めることを内容とする法定の権利を新設し、遺産分割における選択肢の1つとして、配偶者に配偶者居住権を取得させることができることとするほか、被相続人が遺贈等によって配偶者に配偶者居住権を取得させることができることにしました(図表2)。

3.遺産分割に関する見直し等

(1)持戻し免除の意思表示の推定[改正民法903条4項、2019(令和元)年7月1日施行]

婚姻期間が20年以上である夫婦の一方が、他方に対し、その居住用不動産を遺贈または贈与した場合について、同条3項の持戻しの免除の意思表示があったと推定し、遺産分割においては、原則として当該居住用不動産の持戻し計算を不要(当該居住用不動産の価額を特別受益として扱わずに計算をすることができる)としました(P10~11「法律相談」参照)。

(2)遺産分割前の払戻し制度の創設等[2019(令和元)年7月1日施行]

遺産分割協議や調停、あるいは家庭裁判所の審判を経ないで預貯金の払戻しを認める方策と、家事事件手続法の保全処分の要件を緩和する方策とに分けた規定が創設されました。

ア.遺産分割協議や調停、家庭裁判所の審判を経ないで、預貯金の払戻しを認める方策

各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち、口座ごとに以下の計算式で求められる額[ただし、同一の金融機関に対する権利行使は、法務省令で定める額(150万円)を限度とする]までについては、他の共同相続人の同意がなくても単独で払戻しをすることができるとしました(改正民法909条の2)。

【計算式】単独で払戻しをすることができる額=(相続開始時の預貯金債権の額)×(3分の1)×(当該払戻しを求める共同相続人の法定相続分)

イ.家事事件手続法の保全処分の要件を緩和する方策(改正家事事件手続法200条3項)

預貯金債権の仮分割の仮処分については、同条2項にある事件の関係人の急迫の危険の防止の必要があることの要件を緩和することとし、家庭裁判所は、遺産の分割の審判または調停の申立てがあった場合において、相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権を行使する必要があると認めるときは、他の共同相続人の利益を害しない限り、申立てにより、遺産に属する特定の預貯金債権の全部または一部を仮に取得させることができることにしました。

(3)遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲[2019(令和元)年7月1日施行]

ア.遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人全員の同意により、当該処分された財産を遺産分割の対象に含めることができることとしました(改正民法906条の2第1項)。

イ.なお、共同相続人の1人または数人が遺産の分割前に遺産に属する財産の処分をした場合には、当該処分をした共同相続人については、アの同意を得ることを要しないとされました(同条2項)。

4.遺言制度に関する見直し

(1)自筆証書遺言の方式緩和[改正民法968条2項、2019(平成31)年1月13日施行]

全文の自書を要求している現行の自筆証書遺言の方式を緩和し、自筆証書遺言に添付する財産目録については自書でなくてもよいものとしました。ただし、財産目録の各頁に署名押印することを要します。

(2)遺言執行者の権限の明確化等[2019(令和元)年7月1日施行]

ア.遺言執行者の一般的な権限として、遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は相続人に対し直接にその効力を生ずることを明文化しました(改正民法1012条)。

イ.特定遺贈または特定財産承継遺言(いわゆる相続させる旨の遺言のうち、遺産分割方法の指定として特定の財産の承継が定められたもの)がされた場合における遺言執行者の権限等を、明確化しました(同法1014条)。

(3)遺言書保管法[2020(令和2)年7月10日施行]

高齢化の進展等の社会経済情勢の変化に鑑み、相続をめぐる紛争を防止するという観点から、法務局において自筆証書遺言に係る遺言書を保管する制度を新たに設けました[法務局における遺言書の保管等に関する法律(以下「遺言書保管法」という)]。

保管の申請の対象となるのは、民法968条の自筆証書遺言のみであり(遺言書保管法1条)、法務大臣の指定する法務局(遺言書保管所)において、遺言書保管官として指定された法務事務官が遺言書の保管に関する事務を取り扱います(同法2条、3条)。

遺言者は、保管されている遺言書について、その閲覧を請求することができ、また、遺言書の保管の申請を撤回することができます(同法6条、8条)。これに対し、遺言者の生存中は、遺言者以外の方は、遺言書の閲覧等を行うことはできません。

遺言者が死亡した場合、相続人や受遺者らは、遺言書保管事実証明書の交付(同法10条)、遺言書の画像情報等を用いた遺言書情報証明書の交付請求および遺言書原本の閲覧請求をすることができます(同法9条)。

遺言書保管所に保管されている遺言書については、遺言書の検認(民法1004条1項)の規定は、適用されません(遺言書保管法11条)。

5.遺留分制度に関する見直し[2019(令和元)年7月1日施行]

(1)改正前は、遺留分減殺請求権の行使によって当然に物権的効果が生じ、相続不動産について、遺留分権利者が、遺留分相当の共有持ち分を取得し、以後共有としていました。
改正民法では、遺留分に関する権利の行使によって物権的効力が発生するのではなく、遺留分侵害額に相当する金銭債権が生ずることになりました。
改正民法施行後は、遺留分減殺請求権の行使によって、その権利は、金銭債権となることが明らかとなり、遺留分権利者としては、遺留分相当額の金銭請求をすることができるようになりました(改正民法1046条1項)。

(2)なお、遺留分権利者から金銭請求を受けた受遺者または受贈者が、金銭を直ちには準備できない場合には、受遺者等は、裁判所に対し、金銭債務の全部または一部の支払いにつき相当の期限の許与を求めることができるものとしました(改正民法1047条5項)。

6.相続の効力等に関する見直し[2019(令和元)年7月1日施行]

特定財産承継遺言等により承継された財産については、登記等の対抗要件なくして第三者に対抗することができるとされている改正前の規律を見直し、法定相続分を超える部分の承継については、登記等の対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができないこととしました(改正民法899条の2)。
相続人の1人が、自己の法定相続分を第三者に譲渡、登記も経た場合などに、のちに特定財産承継遺言が発見されても、第三者の権利は保全されることになります。

7.相続人以外の者の貢献を考慮するための方策[2019(令和元)年7月1日施行]

相続人以外の被相続人の親族が、無償で被相続人の療養看護等を行った場合には、一定の要件の下で、相続人に対して金銭請求をすることができるようにしました(改正民法1050条)。

8.宅地建物取引業に与える影響

相続が発生した物件に関して、宅地建物取引業には大きな影響があると思われます。
とりわけ、相続不動産の売却等の事例で、配偶者短期居住権や配偶者居住権の存否を確認する必要性のある場面がありえます。

また、不動産管理の場面では、相続不動産についての家賃の支払いについて、遺産分割前でも賃借人に遺産分割前の預貯金払戻し制度を利用しての支払いを促す余地があります。
その他、従来、遺留分減殺請求により共有関係となるとされていたのが、金銭債権化したことにより、遺贈により取得した不動産の処分がしやすくなることなども宅地建物取引業に影響あるところです。

「配偶者居住権」Q&A

Q1 配偶者居住権の利用方法と使用上の注意点を教えてください。

A1 配偶者居住権は、建物全部に及び、使用・収益できます。ただし、基本的には相続開始前と同じ利用方法でなければなりません。

注意点においては、配偶者は善管注意義務に基づき居住建物を使用・収益しなければなりません。
配偶者居住権を第三者に譲渡をすることはできず、居住建物の増改築や、第三者への使用・収益のためには居住建物の所有者の許諾が必要です。

Q2 配偶者は居住建物を修繕できますか?

A2 配偶者は、居住建物の使用・収益に必要な修繕ができますが、配偶者がしない場合は、居住建物所有者が修繕できます。
通常の必要費(破損部分の修理等の費用)は配偶者が負担し、それ以外の有益費(増築費用等)は、価格の増加が現存する場合に限り、居住建物所有者の選択に従い、配偶者の支出した金額または増価額を償還させることができます。

このコラムは、全日本不動産協会が発行する月刊不動産2019年10月号に掲載された特集記事を一部改定したものです。

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