宅建業コラム

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民法(債権法)改正が 不動産実務に与える影響3-危険負担、瑕疵担保責任と買戻しについて

更新日:2019年10月11日

2020年4月1日から「改正民法」が施行されることに伴い、現行民法と大きく異なる規定が多くあります。そこで今回は、売買契約において、危険負担と瑕疵担保責任、買戻しの改正点や不動産実務での注意点等を解説します。

1. 危険負担について

①危険負担の意義

AがBに対し、ある目的物を売り、Bがそれを買うという売買契約を結ぶと、BはAに対して、「目的物を引き渡せ」という債権を持つことになり、Aは、目的物をBに引き渡す債務を負担します。他方、AはBに対して、「代金を支払え」という債権を持ち、Bは、代金支払債務を負担することになります。

引渡しと代金の決済を1カ月後にする売買契約を締結した場合に、その後、AとBのどちらの責にも帰することができない理由、例えば地震で目的物が滅失したことにより、引渡債務が履行不能になったとします。このときに、この危険はどちらが負担するのかというのが危険負担の問題です。つまり、Bは、代金を支払う必要があるのかないのかということです(図表1)。

図表1

危険負担については、債権者主義と債務者主義があります。

②現行民法の規定

現行民法は、一方の債務が消滅すれば他方も消滅するのが公平ということで、原則として債務者主義を採用していますが(現行民法536条)、不動産などの特定物※については債権者主義を採用しています(同法534条)。

債権者主義とは、目的物の引渡債務が消滅した場合、その危険は債権者である買主のBが負担するというものです。つまり、買主のBは代金を支払わなければならないのです。しかし、買主のBは目的物を取得できないのに代金を支払うのですから、不公平です。

そこで、不動産取引の実務では、特約を結んで、原則とは逆に、Bの代金支払債務もなくなることとしています(これが債務者主義であり、債務者であるAが危険を負担するということです)。

ところで、現行民法が、特定物については債権者主義を採用している理由は何でしょうか。

そもそも危険負担とは、ある人の支配下にある物について何かトラブルが起きたときには、トラブルの結果は支配していた人に責任を負わせようという考え方のことです。その人の支配下にまだその物が入ってきていないときは、まだその物についての危険がその人に移転していないということになります。

明治時代に作られた民法において、どうして特定物の売買契約をすると、引渡しも行っていないのに目的物の危険(支配)が買主(B)に移転するという規定になっているのでしょうか。

答えは現行民法176条と177条にあります。

不動産について、二重譲渡があったとき、例えば、AがまずBに建物を売り、次にAが同じ建物をCに売ったときに、BとC、どちらが所有権を取得するのでしょうか(図表2)。

図表2

Cが後で買っても、先に登記すればCが勝ちます(Cが所有権を取得します)。これはフランス民法の考え方で、これを意思主義・対抗要件主義といいます。売買契約は債権関係なので二重に行うことができるのですが、そのときに物権である不動産の所有権は、Cがいないときでも、意思主義によってAからBに移転します(現行民法176条)。その後、Cが出てくると、Cにも観念的に所有権が移転することとなり、最終的にはBとCとで先に登記をしたほうが完全な所有権を取得することになります(同法177条)。わが国はフランス民法の考え方を採用したのです。

他方、ドイツでは、移転登記をしない限り所有権は移転しません。したがって、ドイツでは二重譲渡の問題は起きないのです。A・C間で売買契約を結んでも、登記を移転しない限りは所有権が移転しません。これを形式主義といいます。

日本では、フランス民法の考え方を採用したうえで、二重譲渡においては先に登記を移転したほうが完全な所有権を取得するという、不完全物権変動理論が唱えられました。「物権変動はあるが不完全だった。登記を移転することによって完全な所有権移転が生ずる」とするのが有力説でした(民法の大家である我妻榮先生の説です)。ドイツでは登記を移転しなければ所有権が移転しないので、単純明快です。

以上のように、この点についてわが国はフランス民法の考え方を採っており、フランス民法では、A・B間の売買契約をした段階で、観念的にAからBに所有権が移転します。不動産の支配がBのもとに移転しているということです。したがって、売買における危険も、売買契約をした段階でAからBに移転していると考えられたのです。

③改正点

しかし、不動産取引の実務(現場)では、売買代金と引換えに登記も売主Aから買主Bに移しますし、そうなって初めて所有権もAからBに移転するというのが一般的な感覚なので、今回の改正では民法534条を削除して、目的物の引渡しができなくなったら、Bも代金を支払わなくてよいこととしたのです。

すなわち、債権者主義の規定(現行民法534条)を削除し、特約によって原則と例外を逆にしていた不動産実務を追認しました。

なお、改正法では、債務が消滅するという形ではなく履行拒絶という効果しか生じないこととされたため、Bは、売買代金支払いの履行を拒絶することができるだけとなりました(改正民法536条1項、事例)。

そこで、このような反対債務を完全に消滅させたいのであれば、契約を解除する必要があります。改正法では、当事者双方に帰責事由がなく履行不能となった場合でも、契約を解除することができるとされているので、Aに帰責事由がなくとも、契約目的が達成できない場合には、Bは契約を解除して、その反対債務を消滅させることができるようになりました(図表3)。

図表3

事例

Q:Aは、BからA所有の住宅の購入の申込みを受け、9月1日に売買契約を締結しました。その契約では、11月1日に決済(住宅の引渡しと売買代金の支払い)を予定していましたが、9月15日に地震が発生し、住宅が滅失してしまいました。

この場合、買主Bは売買代金を支払う必要はあるのでしょうか?

A:<現行民法の場合>
不動産などの特定物については、目的物の引渡債務が消滅した場合、債権者である買主Bが代金を支払わなければなりません(ただし、不動産取引の実務では、特約を結び、売主Aが危険を負担することとしていました)。

<改正民法の場合>
目的物の引渡しを受けられなくなった場合、買主Bは代金支払いの履行を拒絶できることになりました。ただし、代金支払債務は消滅しないため、債務を完全に消滅させたいのであれば、契約を解除する必要があります。改正民法では、当事者双方に帰責事由がなく履行不能となった場合でも、契約を解除することができます。

2. 瑕疵担保責任について

①現行民法の規定

現行民法は、分譲住宅やマンションなどの特定物の売買においては、その目的物について欠陥があった場合でも、ある意味で、その物はこの世の中に1つしかない物ですので、その物を売り、その物を引き渡せば足りることになっています。すなわち、その目的物を引き渡した時点で、売買契約上の債務は完全に履行したことになり、引渡し後にその欠陥が見つかっても債務不履行にはならないとの考え方を採っています(これを「特定物ドグマ」といいます)。

このため、例えば売買の目的物である中古の建物に白アリがいたなどの隠れた瑕疵(欠陥)が見つかった場合にも、契約上の債務は履行済みなので債務不履行にはならないこととなってしまい、修補請求などの履行の追完を求めることはできません。しかし、それでは買主の保護に欠けるため、買主に特別の損害賠償請求権や、契約の解除請求権を認めているのです(法定責任説)。

②改正点

改正法では、以上のような考え方を否定し、世界的な標準に合わせて、上記のような場合も債務不履行と考えていくこととなりました。

すなわち、引渡し後に見つかった欠陥は、債務の履行として契約の内容に適合するか否かが問題とされ、契約内容に適合しないときは債務不履行となり、買主は新たに修補等の履行の追完を求めることができるようになりました(改正民法562条)。

また、改正民法563条では、買主の代金減額請求の規定が新設されました。

(1)目的物が、種類、品質又は数量の点で契約不適合の場合には、買主が一定の期間を定めて催告し、その期間内に追完がないときは、買主は不適合の程度に応じて代金の減額の請求ができます(同法563条1項、図表4)。

図表4
(2)履行の追完が不可能であるときは、催告しても意味がないので、買主は無催告で代金減額を請求できます(同法563条2項)。
(3)買主に帰責事由があるときは、不公平になるので、買主は代金減額を請求できません(同法563条3項)。

③実務上の注意点

現行民法では、契約不適合のときに代金減額請求が認められるのは、数量指示売買における数量不足の場合(現行民法565条、563条1項)だけでしたが、今回の改正により種類や品質の不適合の場合も認められることになりました。

その結果、買主は「追完を請求できる、損害賠償請求もできる、解除もできるが、損害賠償と解除の一種の変形として代金の減額請求もできる」として、いろいろな選択ができるようになりました。そうすると、不動産売買契約を締結するうえで、特約をいくつも結ぶことになります。

「売買の目的は〇〇なので、設備・仕様は別表のとおりとします」「不具合が生じたときの修補はこのやり方にします」「追完の方法としては修補以外にこれとこれだけ認めます」「〇日までに修補しない場合は契約を解除します」「代金減額請求をするためには、受領後〇日以内に不適合等の内容を通知してください」。

このような特約の記載のほか、トラブルが起きたときの対応の仕方を決めておく必要が出てくると思います。

3. 買戻し

①現行民法の規定

(1)買戻しをするためには、元の売買契約を解除することになりますが、買主は、支払った代金及び契約の費用を返還して元の売買契約を解除することができるとされています。
(2)また、この規定は強行規定であると解釈されていますので、当事者間で買戻しの代金として元の売買代金以外の合意をしても無効とされています(現行民法579条)。

②改正点(修正)

改正法では、若干の修正がなされ、売主と買主の両者の合意があれば、合意で定めた金額で買い戻すことができることとなりました。すなわち、改正民法579条は任意規定とされたのです。

③実務上の注意点

今回の改正により、買戻しの金額を自由に定められることになりましたので、将来の不動産価格の動向などを探りながら、きめ細かな検討をして買戻しの代金を決めることになるものと思われます。

すなわち、買戻しについて、より柔軟な対応ができることとなりました。

吉田修平法律事務所 弁護士 吉田 修平

1977年早稲田大学法学部卒業。1982年弁護士登録、第一東京弁護士会入会。1986年吉田修平法律事務所開設。2007年政策研究大学院大学特別講師。近著に『2016年改正 新しいマンション標準管理規約』(2017年、共著、有斐閣)、『民法改正と不動産取引』(2017年、きんざい)など多数。

このコラムは、全日本不動産協会が発行する月刊不動産2019年9月号に掲載された特集記事を一部改定したものです。