宅建業コラム

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民法(債権法)改正が不動産実務に与える影響1-賃貸借の存続期間と賃貸人の地位の移転-

更新日:2019年06月19日

民法(債権法)が120年ぶりに改正され、2020年4月から施行されることになりました。そこで、民法改正が賃貸・売買・管理等の不動産実務に及ぼす影響を3回にわたり解説します。

民法・法律のイメージ

1. 民法改正の概要

民法改正が不動産実務に与える影響を、①不動産の賃貸借関係、②不動産の売買等の関係、および③その他の関係に分けて見ていくことにしましょう。

まず、改正法の概要は、(ア)新設規定と、(イ)従来の規定を若干手直ししたものとに大きく分けられます。さらに、(ア)の新設規定の中にも、(a)従来の考え方を変更したもの、まったく新しい考え方を新たに設けたもの、(b)従来の考え方(主に判例)を明文化したものとに分けられます。

上記(ア)(a)の新設規定が実務に与えるインパクトは、非常に大きいものとなります。他方、(ア)(b)と、(イ)の従来の規定を若干手直ししたものについては、不動産に関する実務は従来から判例等に従ってきたわけですから、与える影響はそれほど大きいものにはなりません(図表1)。

改正法の概要

2. 不動産賃貸借実務に与える民法改正の影響

①賃貸借の存続期間

現行民法は、賃貸借の存続期間は20年を超えることができないとしていますが(604条)、改正法では、賃貸借の存続期間は50年を超えることができないものとされました。民法が立法された当時は、賃貸借が所有権に対する大きな制約となることを避けるために、地上権や永小作権等の物権の存続期間を50年としていることに対して、債権である賃借権は20年を超えることができないものとされました。

しかし、その後制定された借地借家法の適用を受ける土地や建物の賃貸借は、存続期間の上限がないものとされています。そこで、民法においても、借地借家法の適用を受けない場合の賃貸借について、現代社会のニーズに合わせて賃貸借期間の上限を20年から50年に伸長しました。例えば、ソーラーパネルを設置するために土地の賃貸借を行うような場合は、長期間にわたりソーラーパネルを設置することが経済界のニーズであるため、20年の上限を撤廃したのです(図表2)。

賃貸借の存続期間

②不動産の賃貸人の地位の移転

不動産の賃貸人の地位の移転について、民法605条の2の規定が新設されました。

(1)現行民法には、この点についての規定がなかったのですが、新たに規定が設けられました。大別すると、過去の判例法理を明文化したものと、新たな社会のニーズに応じて新しいルールが定められたものとがあります。

(2)過去の判例法理を明記したものは以下のとおりです。

(ア)605条の2第1項

(a)内容
対抗要件を備えた賃借人のBは、不動産が譲渡されても譲受人のCに対して賃借権を対抗(主張)でき、その場合に、不動産の「賃貸人の地位」も譲渡人のAから譲受人のCに当然に承継されます(大判大正10年5月30日)(図表3)。

賃貸借の相関図

なお、「賃貸人の地位」とは、債権者としての立場(Aは賃料債権を有している)と、債務者の立場(Aは、Bが建物を使用収益できるようにしてやる債務を負っている)の両方を兼ね備えたものをいいます。このことが、今回の改正で条文に明記されました。

(b)上記の前提
そもそも、賃借権は債権(人の人に対する給付を内容とする権利)にすぎないので、本来であれば、図表4のBは、Cからの明渡請求を拒めないのが原則です(物権は物を直接・排他的に支配する権利なので、物権には妨害排除請求権がある)。

賃貸借の相関図

しかし、それではBの保護に欠けるので、Bが対抗要件(引渡し)を備えていれば、Cからの請求に対抗できることとされました。借家法の制定(大正10年)により、債権にすぎない賃借権にも簡易な方法で対抗力が付与されることになったのです。これを、「賃借権の物権化」といいます。

このように、Bは新所有者のCに対抗できるのですが(明渡しを求められても拒絶できる)、その場合、AB間にあった賃貸借関係が、そのままCB間に承継されることが明確にされたのが、上記の判例であり、改正民法なのです。

(イ)605条の2第3項

「賃貸人の地位」が移転されたことを、譲受人のCが賃借人のBに対抗(主張)するためには、CはAから不動産についての所有権移転登記を取得する必要があります(最判昭和49年3月19日)。Cが本当に新しい所有者になったかどうかについて、Bが確認できるようにするためです。このことが、今回の改正で条文に明記されました(図表5)。

図表5

(ウ)605条の2第4項(敷金)

「賃貸人の地位」が譲受人Cに移転したときは、賃貸人Aの負担していた敷金返還債務等もCに承継されます(敷金について、最判昭和44年7月17日)。BはAに敷金を預けているので、本来であればAから敷金を返してもらうことになるのですが、それではBの保護に欠けるので、「賃貸人の地位」を承認しているCから返還させることにしたのです。このことが、今回の改正で条文に明記されました(図表6)。

図表6

(3)新たな考え方による規定

(ア)従来の考え方

賃貸人のAが、賃貸物件に信託を設定する目的でCに譲渡することが実務ではよくありますが、その場合に、受託者であるC(信託銀行など)は、AB間の賃貸借契約における賃貸人の債務(例えば修繕義務等)を負担することは避けたいと考えるため、そのような義務は譲渡後もAが負担することにさせたいという経済界のニーズがあります。

そこで、AC間で賃貸物件を譲渡した場合でも、賃貸人の地位はAにとどめ、その後もAが賃借人Bとの間で賃貸人の修繕義務等を負担していくというスキームをとることになります(なお、譲渡を受けたCも、その後、Aに対してその不動産を賃貸していくことになる)。

賃借人のBは、AB間の賃貸借関係だけであれば、自らが賃料不払い等の債務不履行を犯さない限り、賃借人としての地位は保たれていますが、このようなスキームが行われてしまうと、Bは、転借人の地位に立たされてしまい(CA間がマスターリースであり、AB間がサブリースとなる)、CA間でAが賃料不払いなどの債務不履行を犯せば契約が解除されてしまいます。結果、AB間の賃貸借契約も終了してしまうため、BはCからの明渡請求を受けるというリスクを負うことになってしまいます。そのため、最高裁判例は、このような場合には、AC間の合意だけでは賃貸人の地位が新所有者(C)に移転をすることを妨げる事情があるとはいえないとしていました(最判平成11年3月25日)。その結果、不動産の実務において、このスキームを実現させるためには、賃借人(B)の同意を取ることにしていました(図表7)。

図表7

しかし、Aが1棟のビルを所有して複数の賃借人に賃貸していた物件を、すべてCに譲渡するような場合を想定すればわかるように、数多くの賃借人から同意をとるのは大変煩わしいし、同意をしない者がいると、このスキームは機能しないことになるため、実務界からは、スムーズにできるようにしてほしいという要望が出されていました。

(イ)そこで、改正民法では、以下の条文が新設されました。

605条の2第2項(賃貸人の地位の移転の留保)

(a)不動産の譲渡人Aと譲受人Cが、「賃貸人の地位」を譲渡人Aに留保する旨の合意をし、かつ、その不動産を譲受人Cが譲渡人Aに賃貸する旨の合意をしたときは、賃貸人たる地位は譲渡人Aに留保され、譲受人Cに移転しない(前段)。
(b)この場合に、譲渡人Aと譲受人Cとの間の賃貸借が終了したときは、譲渡人Aに留保されていた賃貸人たる地位は、譲受人Cに移転する(後段)。

以上の結果、(ⅰ)賃貸人の地位を譲渡人Aに留保する場合に、賃借人Bの同意等を得る必要がなく、また、(ⅱ)譲渡人Aと譲受人Cとの間の賃貸借が終了しても、賃借人Bは、譲受人Cからの所有権に基づく明渡請求等に応じる必要がないのでBの保護に欠けないこととなったのです。

(4)実務への影響

上記(2)の過去の判例法理を明記したものについては、従来も行われていたやり方をそのまま踏襲するのにすぎないので、今回の改正が実務に与える影響は小さいものとなります。

これに対し、上記(3)の(イ)「賃貸人の地位の移転の留保」については、従来行えなかった方法が容易にできるようになったので、実務に与える影響は非常に大きいものとなると思います。

③賃借人による妨害排除請求(新設)

(1)現行民法には、特に規定はなかったのですが、対抗要件を備えた不動産賃借権については、賃借人は、賃借権に基づいて妨害排除請求権および目的物の返還請求権を有するとの判例法理がありました(最判昭和30年4月5日)。この理由は、上記2.の(2)(ア)の(b)にあるように、賃借権は物権化しているので、債権にすぎない建物賃貸権も、物権的な強い効力を持つものとされたからだといえると思います。

(2)民法改正法により(605条の4)、上記(1)の判例法理が明文化されました。1号が妨害排除請求権を、2号が目
的物の返還請求権を定めています。

この条文においては、従来の不動産実務を明文化したものなので、実務には大きな影響はありません。

吉田修平法律事務所 弁護士 吉田 修平

1977年早稲田大学法学部卒業。1982年弁護士登録、第一東京弁護士会入会。1986年吉田修平法律事務所開設。2007年政策研究大学院大学特別講師。近著に『2016年改正 新しいマンション標準管理規約』(2017年、共著、有斐閣)、『民法改正と不動産取引』(2017年、きんざい)など多数。

このコラムは、全日本不動産協会が発行する月刊不動産2019年6月号に掲載された特集記事を一部改定したものです。