宅建業コラム

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地面師が暗躍する時代の防衛手段 -本人確認とは、所有権の有無を確認すること-

更新日:2019年05月29日

地面師という言葉は、ここ数十年間ほとんど聞くことはありませんでしたが、一昨年(平成29年)からの一連の新聞報道等によって、改めて地面師事件の大きさや手口の巧妙さに驚かされました。そこで私たち不動産業者が今後地面師にだまされ利用されないためには、対策をどのように立てたらよいかを、述べたいと思います(渡邊不動産取引法実務研究所 代表 渡邊 秀男)。

地面師の一番の防衛手段は本人確認です!

地面師とは

地面師とは、他人の土地を自分の土地のように装い、土地代金等をだまし取る者、またはそのグループのことをいい、その始まりは戦後の混乱期に乗じて暗躍した者たちだといわれています。

近年の主な事件とその手口

(1)主な事件

  1. 積水ハウス事件(東京都品川区西五反田二丁目物件)
    被害者:積水ハウス(株)(被害額約55億円)
  2. アパホテル事件(東京都港区赤坂二丁目物件)
    被害者:アパグループ会社(被害額約12億円)
  3. N都市開発事件(東京都港区新橋四丁目物件)
    被害者:N都市開発(株)(被害額約12億円)
  4. 富ヶ谷事件(東京都渋谷区富ヶ谷一丁目物件)
    被害者:中堅不動産会社(被害額約6億円)

(2)地面師によるだましの手口

  1. グループ内で役割分担をすることにより、事件の全貌がわからないようにする(積水ハウス事件ほか)。
  2. ニセ者がニセ者をだますかたちをとり、立件を難しくする(積水ハウス事件ほか)。
  3. 所有者がなかなか売らない物件は、仲間内で偽装売買を行い、その買主の権利を譲渡する等の方法により、買主を安心させ売却する(積水ハウス事件ほか)。
  4. 最初の偽装売買の「本人確認」は、公証人が行うかたちをとる(公正証書にする:積水ハウス事件ほか)。
  5. 偽装売買に正常売買を組み込み、転売を繰り返す(N都市開発事件)。
  6. 過去の取引で知り合った知己を利用し、買主側の幹部などに恩を売りながら土地を売り渡す(積水ハウス事件)。
  7. 弁護士や弁護士事務所を利用し、買主を安心させる(積水ハウス事件、富ヶ谷事件ほか)。
  8. 高齢者が所有している物件は、医療機関やニセ医師を介在させ、意思確認をしたうえで売却する(アパホテル事件ほか)。
  9. 金融絡みの物件は、譲渡担保を絡ませた所有権移転登記をしたうえで売却する。
  10. 法人所有の物件は、休眠会社を買収し、類似ないし同一商号に社名変更したうえで買主をだまし売却する。

なぜ不動産業者がだまされるのか

地面師の暗躍
私たち不動産業者は、常に高額な不動産商品を扱っており、その利益のもととなる土地の仕入れやその仲介を業としています。したがって、そこにはそれに携わる者のノルマがあり、それを課す会社もノルマ(利益目標)があります。地面師はそれを狙っているのです。

つまり、不動産業者はその利益のもととなる土地の仕入れや仲介に熱心なあまり、その盲点ともいうべきノルマ達成のための意欲や向上心が、いつの間にか「功名心」に変わり、何としても自分の手で成約させたい、他人や他社に邪魔されたくない、実力を評価されたい、昇進したいというかたちに変わっていくのです。これは、誰にでもある心理なのではないでしょうか。

それゆえに、地面師たちは不動産のプロである不動産業者に直接「本人確認」をされては困るのです。そのために、公証人や弁護士を使い、価格を安くして早い者勝ちを演出しながら、買主にやるべきことをやらせずに早期契約に誘導していくのです。

不動産業者が行うべき防衛手段は

前述のとおり、地面師たちの行動は極めて巧妙です。

そのような中にあって、私たち不動産業者が地面師にだまされたり、利用されたりしないためには、まずは「うまい話には乗らない」「少しでもおかしいと思ったら、取引を中断する」「契約を急がない」という三大金言を肝に銘じます。最大の防衛手段である1.「本人確認」を必ず自分で行い、2.本人しか知り得ない物件特性や固定資産税等の負担金の実際の支払者・支払額等を必ず売主側に確認する。といった細心の注意を払えば、ほとんどの事件を防止できると思います。

その上で、3.地面師たちがなぜ仮登記を絡めた買取仲介方式(他人物売買等)を利用するのかを理解することが必要です(積水ハウス事件ほか:図1~3)。

図1 他人物売買方式

他人物売買方式

図2 契約上の地位の移転方式

契約上の地位の移転方式

図3 地面師等が絡む第三者のためにする売買契約方式の例

地面師等が絡む第三者のためにする売買契約方式の例

今後地面師事件が増えると思われる理由とその対策

時代背景としては、2020年の東京オリンピック・パラリンピックのためのホテル用地不足と、従来からのマンション用地不足が挙げられますが、それ以外の理由としては、何といっても、少子高齢化に伴う空き家・空き地の増加と所有者不明土地の増加があります。

その対策として、政府はすでにそのための特別措置法を制定していますが、それらはいずれも地面師対策としては不十分なものです。しかし、今後検討される相続登記の義務化と、2020年4月1日から施行される改正民法560条(権利移転の対抗要件に係る売主の義務)の規定によって、現行の売買代金決済手続が少なくとも登記の受理完了後に行われるようになれば、かなりの被害軽減につながるものと思います。

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渡邊 秀男

渡邊不動産取引法実務研究所代表。1965年中央大学法学部法律学科卒業。三井不動産販売株式会社(現三井不動産リアルティ株式会社)を経て、(公財)不動産流通推進センターにおいて、実務講習・指定講習等の教材執筆と、不動産相談業務・研修講師業務に従事。2010年から現職(宅地建物取引士、マンション管理士、行政書士)。

このコラムは、全日本不動産協会が発行する月刊不動産2019年4月号に掲載された特集記事を一部改定したものです。