宅建業コラム

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VR技術の振興を目指す埼玉県の取組み~全日埼玉県本部との協力に向けて~

更新日:2018年07月25日

以前更新したVRサービスの現状と今後・不動産業界との関連性という記事では、VR(VirtualReality:仮想現実)サービスについて解説しました。
今回は、地方自治体の中でも産業支援策としてVR映像開発事業を先進的に行っている埼玉県の取組みを紹介します。2018年度からは親和性が高いといわれる不動産業を対象とした事業も始めています。

新規産業振興で映像分野に注力

埼玉県は、県内の中小企業の振興と映像関連産業を核とした次世代産業の導入・集積を目指し、2003年、川口市に「SKIPシティ」をオープンしました。同時に映像関連産業拠点施設として「彩の国ビジュアルプラザ」も整備し、若手映像クリエーターの支援事業を行っています。

施設内にはスタジオや編集設備、映像ホールなどに加え、スタートアップ企業向けのインキュベートオフィスも設置。また毎年7月には「SKIPシティ国際D(デジタル)シネマ映画祭」を開催し、80カ国以上から作品が集まる若手映像クリエイターの登竜門となっています。

「ANIMAを撃て!」(SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2017オープニング作品)VR特別編ⓒ埼玉県/SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ

「ANIMAを撃て!」(SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2017オープニング作品)VR特別編ⓒ埼玉県/SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ

昨年度からVR事業をスタート

埼玉県がVRを扱うようになったのは2017年度から。「VR元年」といわれる2016年にVRやAR(拡張現実)などの新しい映像技術が盛り上がりを見せ、さまざまな産業分野への展開が期待される一方、コンテンツ制作のノウハウを持つ技術者が不足しているという課題がありました。

そこで、映像関連産業を担当する県産業労働部商業・サービス産業支援課では、これまでの支援事業で培ったノウハウや設備・施設を活用し、新たに「バーチャルリアリティ映像開発推進事業」をスタートすることにしました。

VRを活用している地方自治体は増えていますが、映像開発や人材育成の推進は全国でも珍しい取組みです。埼玉県産業労働部商業・サービス産業支援課の荻野勝也さんは「これまでは各社が独自のノウハウを構築してきましたが、県として基礎的なノウハウを取りまとめて支援していけば、映像制作事業者の皆さんがVR映像の制作に取り組むことができるようになります。さらにそれを県内企業の皆さんが自社サービスや製品のPRに活用していけば、さらなる産業振興にもつながると考えています」と言います。

具体的には、先進的企業をアドバイザーに迎えてデモ映像の制作に取り組みながら、360度カメラを使った撮影方法や映像処理作業を実践的に学んでもらい、施設紹介や観光、ドラマといったコンテンツで汎用的な制作ノウハウと応用力の習得を目指すもので、これまでにデモ映像を6本制作しました。

さらに、関連セミナーの開催や展示会を通じた制作事例・利用事例の紹介、ビジュアルプラザでの一般向けのPR活動なども積極的に行っています。また、今年1月25日には、埼玉県が主催した「彩の国ビジネスアリーナ2018」で、「VR映像の制作と活用~『川口オートレース場PR用VR』を事例として」と題したパネルディスカッションを開催。

VR映像の仕組み・制作方法や、担当した監督と一緒に川口オートレース場のVR映像制作の苦労話や通常の撮影との違いなどについて紹介しました。

さいたまスーパーアリーナで開催された「彩の国ビジネスアリーナ2018」

さいたまスーパーアリーナで開催された「彩の国ビジネスアリーナ2018」

1月24日・25日の2日間で17,000人を超える方々が来場した

1月24日・25日の2日間で17,000人を超える方々が来場

川口オートレース場の特別観覧席の受付

川口オートレース場の特別観覧席の受付

川口オートレース場の特別観覧席(360度のVR画像を1枚の平面写真にしている)

川口オートレース場の特別観覧席(360度のVR画像を1枚の平面写真にしている)

不動産業向けにVR制作支援事業

さらに2018年度からは、観光業者や不動産業者向けに、「専門の映像制作事業者ではない人が自ら撮影し、完成した映像を自ら活用する」ための支援事業もスタートしました。特にVRと不動産は親和性が高いといわれ、すでに大手不動産会社などではVR内覧サービスや新築物件のVR案内といったサービスを始めています。

荻野さんも「事業1年目は制作者育成でしたが、2年目は県内事業者の皆さんの事業拡大・売上増加につながるような内容にしたい」と考え、全日埼玉県本部に協力を要請しました。

協力要請を受けた全日埼玉県本部では、これまでも物件撮影セミナーを開催したこともあり、VRに興味を持っている会員企業もいるとのこと。「まだ具体的な支援内容やセミナー構成が決まっていないので未知数な部分はありますが、実際に体験し実例が上がってくれば、活用できるかの判断ができるのでは」(事務局担当)と期待しています。

支援内容の詳細は現在検討中ですが、埼玉県と全日埼玉県本部の共催による会員向けのセミナーやワークショップなどが中心になると見込まれており、「参加者がVRカメラで物件を実際に撮影し、その360度映像をホームページに掲載していくような実地ベースの構成にしたいと思っています」(荻野さん)。使用する機器・設備類についても、購入しやすい価格帯の汎用品を想定し、導入ハードルが低くなるように工夫するとのこと。

埼玉県ではこの新年度事業を通じて、企業内のVR活用者の育成に取り組むとともに、VR映像制作事業者と県内企業とのマッチングも加速させ、県内産業へのVR活用をさらに進めていく方針です。

このコラムは、全日本不動産協会が発行する月刊不動産2018年5月号に掲載された特集記事を一部改定したものです。